世界の音楽界はブランド品の氾濫だ。昔はフルトヴェングラーやコルトーのような、技術的に欠陥がある人でも、クナッパーツブッシュのような桁はずれの個性で遊ぶ人も世に出られ、巨匠、名人と称えられたが、技術優先の現代では無視されてしまうことだろう。なんとも寒心すべき時代である。
 そのようなとき、ディスク・クラシカ・ジャパンというレーベルが立ち上げられ、無名の新人をオーディションし、合格すればCD化してレコード店で売る、というのだから朗報である。会社の勇気と良心に感服し、一文をしたためた次第だ。日本人はとくにブランド品に弱く、自分の耳で判断しようとしない。ぼくのまわりにも無名ながらすばらしい演奏家が存在する。そういう人たちに光を与える新レーベルの登場、しかも録音システムも最上と聞く。第一回発売の高橋希代子による「ピアノ名小品集」など、センスの良さと音の良さが実に見事。今後このレーベルの新譜から目がはなせなくなった。
プロフィール

©撮影/ 栗原義幸
宇野功芳
1930年生まれ。国立音楽大学声楽科卒業。
歯に衣を着せぬ独自の評論と情熱溢れる文章で多くのファンを持つ。現在「レコード芸術」交響曲月評でレギュラー執筆中。
著書「宇野功芳・著作選章」(学研)ほか多数。
66年合唱指揮者としてデビュー。
定期的に演奏家を行い、「水のいのち」などの合唱曲のCDが
多数発売されている。定期的にオーケストラを振りその独自の世界には熱狂的なファンがいる。CDに「モーツァルト:交響曲第40番」「ベートーヴェン:交響曲第5番」(エクストン10/19発売)などがある。
今、宇野功芳は、戦前、戦中、戦後の歌謡曲や童謡など、その歌を歌っていた歌手が亡くなったり、時代状況が変わって取り上げられなくなってしまった名曲を、女声合唱曲に編曲して残す活動に情熱を燃やしている。
   
江川紹子氏からの推薦文
買い物でも、食事をしに行く時でも、「めっけもん」ほどうれしいことはない。
 予想外にいいものを見つけたり、おいしいものに巡り会ったり。そういう時は、私ってなんてラッキーなのだろうと、幸福感でいっぱいになる。
 音楽会やオペラでも、「めっけもん」をした時は、本当に楽しい。お目当ての”本命”音楽家が素晴らしいパフォーマンスをしてくれれば、もちろん幸せ。それに加えて、特別の期待をしていなかったり、これまで知らなかった人のいい演奏を聞いたりすると、新たに素晴らしい才能を発見したようで、気持ちが高ぶる。この人の歌や演奏をもっと聴いてみたいな、と思う。
 それで、休憩時間にCDを探す。演奏会場では、よく出演者のCDを売っているのだ。けれど、特に「めっけもん」さんの場合、若かったり、十分に世に知られていない音楽家が多く、ほとんどがCDを出していない。実績のある”本命”さんのものさえ見つけられず、残念な思いをすることがしばしばだ。
 そんな私を救うために(?)、ディスククラシカというレーベルができた。そこでは、”本命”さんはもちろん、力のある「めっけもん」さんのCDも積極的に出していこうじゃないかという話になっているらしい。
 なんてうれしいニュースなのだろう。いったいどういう作品が生まれてくるのかと、今からワクワクしている。
プロフィール
江川紹子
ジャーナリスト。
1982年から87年まで、神奈川新聞社で社会部記者として勤務。
その後フリーライターとして、オウム真理教問題をはじめ、数々の社会問題に取り組む。現在、TV、雑誌等で活躍するいっぽう、クラシック音楽ファンとしても知られ、雑誌『音楽の友』では対談シリーズ「あのアーティストに会いたい−江川紹子の部屋」を連載中。
公式HP:http://www.egawashoko.com
   
山本容子氏からの推薦文
私は、三十年間銅版画を制作してきましたが、作品はアトリエの中だけで完成するものではないと思っています。なぜならば、作品は鑑賞してもらってはじめて存在するからです。そのためには発表ということが大切になってきます。創るということは、時代に合った形式での発表の場を探すことでもあるのです。
今回、新しく生まれるレーベル「ディスク クラシカ」のコンセプトは、様々な才能を完成させるための発表の場を共に作ってゆくということの重要さに気付かせてくれます。私はこの勇気ある提案を応援します。CDを通して、多くの若い才能がデビューし、多くの聴きてと出会えることを期待したいと思います。そして私自身も、キラリと光る才能に出会えることを願っています。このプロジェクトがクラシックな考え方を持ちながらも、現代にしか出来ない手法で存続されることを祈っています。
プロフィール
山本容子
1952年埼玉県生まれ、大阪育ち。
78年京都市立芸術大学美術専攻科修了。
印象的な色使いの洗練された作品世界を確立。
数多くの書籍の装丁・挿画制作、パブリックアートやプロデュースなど
幅広い創作活動。著書も多数。
公式HP:http://y-yamamoto.cplaza.ne.jp/
   
片桐卓也氏からの推薦文
素晴らしい音楽に接した時の感動は、どんな時代にも変わらず存在している。しかし、21世紀の今では、それはコンサートホールでの体験に限るものではなくなりつつある。様々なメディアが存在し、その気になれば24時間音楽に浸っていることも出来る。インターネット・ラジオでベートーヴェンを聞き、そのCDをすぐにサイトで購入するということも可能なのだ。
こんな時代だからこそ、従来の発想に囚われない音楽発信の形が求められるのだろう。有名演奏家の中にも、大きなレコード会社の動きの遅さに反発して、自分自身のレーベルを立ち上げる人もいるし、オーケストラが自前のレーベルを持つ動きも盛んだ。また、いわゆる有名曲ばかりのカタログに飽き足らず、知られざる作曲家の作品を紹介することに積極的な人もいる。また、新しい才能が発掘されても、従来では紹介のタイミングがかなり遅かった。そのテンポを早める動きも必要になるはずだ。
「DISC CLASSICA」の設立は、いわばこうした時代の要求に応えたものだろう。より多くの新しい才能、眠っている才能を発見し、いち早くそれを聞き手の元に届ける。そのすべてをプロフェッショナルな経験を豊富に持ったスタッフが手助けするのである。このプロジェクトの中から、これまで私たちが知らなかった新しい才能が現れてくることになるだろう。また、作品と演奏家との意外な出会い、というような期待も出来そうだ。クラシック音楽をより身近な視点から考え直す良い機会になるかもしれない。まずは、そのスタートを期待して見守りたい。
プロフィール
片桐卓也
1956年福島県生まれ。
早稲田大学卒業後、フリーの編集者&ライターとして活動を続ける。
1990年頃からクラシックの演奏家へのインタビューに取り組み、
現在は『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に定期的に、
原稿を執筆中である。