2008年8月6日発売
DCJA-31001
POS 4560280410099
税抜き定価¥1,000
(1)広島の川
中山千夏 [歌]
山下勇三 [作詞]
佐藤允彦 [作曲・ピアノ]
(2)横丁を曲がりゃ
中山千夏 [歌]
山下勇三 [作詞]
八木正生 [作曲]
佐藤允彦 [ピアノ]
2008年録音
プロデュース:和田誠
1936年広島生まれ、2008年逝去、
キユーピーや無印良品などで優れた業績を残したイラストレーター&デザイナー山下勇三。
故郷を愛し、反核への思いを終生忘れない、熱血の人でもありました。
山下と中山千夏、佐藤允彦との友情から生まれた名曲が、
平和への思いを込めてこの夏、新録音でよみがえりました。
2008年3月27日、赤坂のホテルで開かれた「山下勇三を囲む会」(お別れ会)。生前の交友関係の広さをそのままに数百人の友人が集まり、にぎやかなことが好きだった故人のために…と、和田誠さんが構成された2時間は、生前の仕事の上映や冨士眞奈美さん、吉行和子さんの挨拶など、楽しい会となりました。
そこで流された映像のひとつに、2007年東京イラストレーターズクラブの作品展《テーマ:人間がこれを作った》のプロモーション用に作られたインターネット用映像がありました。自作のイラストを背景に、すっくと立った山下さんは手元の原稿を見ながら、まるで小学生の学級委員のように、「ノーモア・アトミックボム…」と、カタカナを読むように核兵器の保有と使用に反対するメッセージを語りかけるのでした。「インターネットなら世界中からアクセスできる」と聞かされてびっくりした山下さんが、それならば世界の人へのメッセージを…と思い立ってのことだったそうです。
その映像にひき続き、30年以上も前に作られた「広島の川」が、中山千夏さん、佐藤允彦さんのお二人によって演奏され、数百人の参会者に深い感銘を与えてくれました。
終生変わらぬ平和への熱い思い。豪放磊落な性格と繊細な美を愛する感性を併せ持ちながら、ひとはどこまでその意思を貫き通せるものか。みごとなまでの生きかたを教えてくれるひとときでした。その思いが、CDを聴いてくださる皆様に伝わりますように。
TBSラジオに「あなたまかせ」という番組があった。1970年代初頭の頃だ。私と佐藤允彦さんによるトークが基調で、歌ったりゲストを迎えて座談したり。允彦さん作曲のオリジナル曲を毎月、歌ったりもした。多くは自分で作詞したが、寺山修司さんや永六輔さんなど、知人に頼んで作ってもいただいた。
ある時、「方言の歌」を作ろうと考えた。自分では熊本弁の詞を書いた(「こげな町には」。LP『ふたりのひとりごと』に収録)。そして広島弁を山下勇三さんにお願いした。
勇三さんは広島を体現しているひとだった。立派な広島訛りを生涯貫いた。もちろんカープを熱烈に恋慕していたし、もみじまんじゅうを照れながら可愛がっていた。だから、当時、和田誠さんの家に集まって遊んでいた口の減らない陽気な仲間うちでは、広島と勇三さんがよく話のタネになった。それも、たいていは勇三さんが口切りだった。たとえば、カブトガニの話が出れば、「なあに、あんなもん、珍しゅうもなんともない、広島にはごろごろおったんじゃあ」と胸を張って肩をゆする。ごろごろは大袈裟でしょう、と誰かが笑おうものなら、勇三さん、ムキになって身を乗り出し、「ほおんとだって。わしら踏みつぶして遊んどったんやから」。すると和田さんが膝を打ち、「そうか、それでか、勇三が絶滅させたんだな!」。一堂、爆笑。第一番に破顔して大笑いするのは、勇三さんだった。
そんな場面をたくさん見ていた私は、軽くコミカルな詞ができてくるものと思い込んでいた。見事に裏切られた。「広島の川」を一読して、いくらか呆然としながら、私はこんな感慨を抱いた。「そうか、勇三さんにとっての広島は、カブトガニと遊んだ故郷でもあるけれど、改めて問われれば、即座にピカドン川と答えざるをえない場所だったのか」。そして勇三さんがすこし違って見えた。
思えば「広島の川」は、勇三さんのなんたるかを私に知らせた最初の作品だった。その後、平和と、基本的人権の尊重に寄与するボランティアでの仕事や、同じ意識をもっての連作、個展の数々が、私に勇三さんを伝えた。それにつれてどんどん深まっていった勇三さんへの敬愛が、初めて湧き出した源、それが「広島の川」だった。
この歌は、75年にシングル盤で発売された(日本コロムビア)。それが時折ラジオで流れたり、また、ライブや市民集会の場で歌ったりするうちに、少なからぬ人々に愛されるようになった。昔から滅多にライブをしない怠け歌手の私には、すぐにも歌える持ち歌は少ないのだが、「広島の川」は確実にその一曲だ。それだけ私もこの歌を愛している、ということだ。新たにレコーディングできて嬉しい。しかも允彦さんと共演で。
これで勇三さんにもう一度会えれば、完璧なんだけどな。
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Copyright・2008 Disc Classica Japan
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